FLEX Japan 2018 講演レポート1

講演レポート
CDTのCTOに就くJeremy Burroughes氏が基調講演
低コストのFlexible OLED技術と主なアプリケーション分野

 

写真:CDT CTO Jeremy Burroughes氏

 

テーマは"Flexible OLEDs for Display and Sensor Applications"

開幕日4月19日は、" FHE and Printed Electronics Session(FHEとプリントエレクトロニクスセッション)"でスタートした。セッションチェアの住友化学理事技術研究企画部の関根千津氏が紹介を受けて、"Session Keynote(基調講演セッション)"のステージに登壇したのは、英ケンブリッジに本拠を置き、高分子有機ELのパイオニア企業であるCambridge Display Technology(CDT)のCTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)に就くJeremy Burroughes(ジェレミー・バロー)氏。

Burroughes(ジェレミー・バロー)氏は、ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所(Cavendish Laboratory)で博士号(PhD)を取得し、その直後に、可溶性でプロセス性に優れる共役高分子の有機EL発光を発見した。世界で最初に特許出願し、数年後(1992年)のCDTの設立につながった。1997年にBurroughes氏はCDTに入り、それ以来、シニアポジションを務めている。2003年にCDTは住友化学と共同開発を開始。2007年にCDTは住友科学の完全子会社となる。2012年に王立協会(FRS)のフェローに選出されている。

現在、技術の特定とデモンストレーションと知的財産を担当。住友化学のフェローでもあり、日本における新たな研究イニシアチブの構築も担っている。 

有機ELは、有機物の発光層の薄膜を電極で挟み込んだ構造をもち、陽極から正孔、陰極から電子を注入して有機層で再結合させる発光する素子を指す。液晶とは異なり電流を流すことで自発光するのが特徴。次世代ディスプレイの本命とされており、OLED(Organic Light Emitting Diode:有機発光ダイオード)と呼ばれる製品一般についても指す。

OLEDは、発光材料に有機物質(Organic)を使った"LED(発光ダイオード)"で、電流を流すと自ら発光する素子のこと。これに電流を流すと発光する現象は"Electroluminescence(エレクトロルミネッセンス)"と呼ばれ、ELと略される。この発光物質に有機物質(Organic)を使ったものが有機ELであり、その現象を利用した発光素子がOLED。日本では素子も含めて有機ELと呼ばれることが多い。OLEDと有機ELはほぼ同じものとして捉えられている。

この日、Jeremy Burroughes氏は、"Flexible OLEDs for Display and Sensor Applications"(ディスプレイおよびセンサーアプリケーション用のフレキシブルOLED)をテーマに話を進めた。具体的には、価格に敏感なアプリケーションを実現するのに必要となる、低コストのOLEDを製造するために、アルミニウム(Al)だけで覆われた空気処理可能な電子注入層を使って、どのように実現するかについて説明した。この背景には、白物商品やスマートカード用ディスプレイやセンサーアプリケーションにおいては、低コストの製品が求められることがある。

CDTは、低消費電力、3原色の発光と高い特性の発現、日常的なアプリケーションで必要となる長寿命で低コストのフレキシブルOLEDを開発している。広範囲に分布したアイコンは、幅広い消費者製品に適した性能を達成しており、タッチセンサーおよびNFC(近距離無線通信規格)技術との互換性を実証している。CDTは5V未満の動作電圧でRGBW OLEDを製造することを実現している。低消費電力要件により、NFCによるOLEDのリモート電源供給が可能になる。OLEDは0.3mm未満と薄く、軽量で柔軟性があり、長寿命になっている。 CDTは、物理学、化学、工学、マイクロエレクトロニクス、材料、生命科学といった分野の世界的な専門知識を持つ約100人の学際的なチームからなる。

マーケットアプリケーションのための材料とデバイスの最適化まで、幅広いトピックについて研究している。代表的な研究テーマとして、有機エレクトロニクス、エネルギーハーベスティング&ストレージ、光電子検出、バイオセンサー、OLEDディスプレイ、OLED照明などがある。

 

低コストでできる簡単なOLED製品に市場ニーズがある

Jeremy Burroughes氏は、Flexible OLED(FlexOLED)について、シンプルなディスプレイからセンサーアプリケーションまで幅広く語った。

冒頭、OLED製品については、市場に多くが送り出されていることに触れた。すでにサムスン電子のスマートフォン"Galaxy Note 8"などGalaxyシリーズやAppleの"iPhone X"にはOLEDが使われている。また、韓国LG DisplayはCES 2018において、世界初の88型8K OLED TVおよび65型のRollable OLED TVを出展している。

OLED照明についても、LG DisplayがOLED照明事業を拡大しており、2017年に1.1m×1.25m基板を使う第5世代のOLED照明パネル生産ラインを稼働させている。CDTの親会社である住友化学もOLED照明に取り組んでいる。

Burroughes氏は、Flexible OLEDの技術(テクノロジー)、性能、製造プロセス、プロダクションテスト、アプリケーションと商用の可能性の順で話を進めた。最初に、製造上の問題点について語った。

 

イベントのコンセプトは、:"Driving FHE (Flexible Hybrid Electronics) Ecosystem and Community"。FHEの製造だけではなく、異業種とのコミュニティーにより、新たなアプリケーションを含めたエコシステムの構築までにらんでいることを示している。

テーブルトップの出展社(アイウエオ順)は、アキレス、アルバック、SPPテクノロジーズ、キッツエスシーティー、ジェムアルト、次世代プリンテッドエレクトロニクス技術研究組合、新光電気工業、ゼノマックスジャパン、ディスコ、東洋紡、東レエンジニアリング、日本インテグリス、日本航空電子工業、PTC、フジキン、堀場エステック、村田機械、ユアサシステム機器、六甲電子--の19社・団体。

SEMIは、半導体、FPD(フラットパネルディスプレイ)、ナノテクノロジー、MEMS、太陽光発電のほか、それらに関連する技術・製造装置・材料・関連サービスを提供している企業の国際的な工業会。製造装置や材料、コンポーネントといった従来の活動領域に加えて、アプリケーションのエリアまで枠を広げ業界団体として情報提供をすることを社会的使命にしている。

写真:CDT CTO Jeremy Burroughes氏

「OLEDの問題点として、カルシウム(Ca)、フッ化ナトリウム(NaF)といった大気にセンシティブな材料を使っている。それにより高価な製造装置が必要になったり、封止をするのにコストがかかる。そこで、大気の中で処理可能なカソード、材料が必要になる。例えば、バックライトのアルミニウム、銀といったものも考えられる。そうしたことによって、封止にかかるコストを削減することができる」

OLEDは大気や水分に弱いため、これらに触れることなく成膜から封止までのプロセスを一貫処理する必要がある。OLEDのスタック構造を見ると、上から低仕事関数陰極(Cathode:カソード)、発光ポリマー層、インターレイヤー層、正孔注入層、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)がある。正孔注入層、インターレイヤー層、発光層は、すべて溶液からの成膜。3原色で共通し、しかも単純な素子構造となっている。素子はスピンコート法により作製する。

「安定しているカソード(外部回路へ電流が流れ出す電極)があって、陽極にITOがあり、これをイオンでつなぐ。ここに電解を適応すると、イオンがアノード(Anode:陽極)とカソードに分かれていき、十分なスペースチャージが確保できるようになる。重さも軽くなる。封止するためのコストが非常に下がる。問題は高電圧が必要になることだ。16VのOLEDを求めている人はいないと思うし、応答時間も少しゆっくりになる。使い方によっては輝度の問題も出てくる」

Burroughes氏は、ほとんどのOLEDのR&D(研究開発)はハイエンドアプリケーションであるテレビのディスプレイや照明といった、非常に長い寿命を要求されるものになっている現状に言及。高電圧の問題さえ解決できれば、低コストでできる簡単なOLED製品に市場ニーズがあり、実際に顧客の要望もあるとした。スマートカードや白物家電などのアプリケーション用の可撓性(かとうせい)があり、成形可能な基板上の低コストのソリューションにフォーカスし、アプリケーションの視点から開発に取り組んだことを語った。

「仕事の焦点は、アルミニウム(Al)を蒸着させるか、使用空気処理可能なカソード材料を開発することで、カプセル化を含む生産コストの最小化とシンプルなエバポレーターにより薄膜封入なしで製造するかとなる」

一般的なOLEDの製造法は、基板上に発光層の膜を形成するのに真空蒸着を用いて、微細な埃の粒が混入しないようクリーンルームで作業をする。このため、大規模な設備投資が必要でコスト高となってしまう。

Burroughes氏は、低コスト化による新たな市場機会を探るため、3種類の製造上の試みをしたことを紹介した。

第1の試みは発光電気化学セル(LEC:Light-emitting Electrochemical Cell)を使ったこと。これは、OLEDに近い発光原理になるが、OLEDが電極を含めて通常5層構造をとるのに対してLECは3層で済ますことができる。ここでは、印加された電界電場イオンは、すべての電気注入に十分な空間電荷が得られるまで陽極および陰極に移動する。

「発光電気化学セルを使った最初の取り組みは、構造を非常にシンプルにするということで、大気にセンシティブなカソードを使って機能するかどうかチェックした。これはうまくいったものの、電圧は10Vとまだ高いという問題が残った。そこで、住友化学から材料を借りて、それをエミッターのメタルの部分であるETL(電子輸送層)に乗せたに乗せた。これでも、残念ながら、寿命がよくなかった」

 第2目の試みは仕事量の少ない金属を銀(Ag)だけを使用しないことだった。これは、驚くほどうまく動作したもの、電圧はGreenで9.5-10.0V、Redで11.5-12.0とまだ高過ぎた。高電界は粒子にあまりにも敏感なので、あまり良くない結果となったのだった。そこで、第3の試みをした。ここでは、低仕事関数の金属を使用せず、放出ポリマーと銀(Ag)とアルミニウム(Al)との間に電子輸送層を挿入した。だが、ターゲットとするアプリケーションにおいても寿命が非常に短いということになった。課題は、低駆動電圧、アプリケーション用の十分な寿命、空気中で処理可能なソリューション、低コストプロセスを使用した良好な歩留まりといった要件を達成することである。

「OLEDの性能を低コストで実現するには、低駆動電圧であり、何十万時間という運転時間は必要としないことだ。大気の中で処理可能でコストが低いものということになると、Nドープ(窒素ドープ)の材料になる。Nドープ材料は大気に感応度が高いので、ソリューションとしてはETLが必要だか、全駆動ドーバンドが求められる。大気の中で安定していられるデバイスを作り、それを最終の状態であるNドープに変換していくということだ」

酸素、水およびオゾンの通常の有害な影響なしに空気中で処理することができるN型ドープポリマーが肝心となる。ここで、新たなETL材料とデバイスが完成した後に活性化されるプレカーソルドーパントがソリューションとなった。両方とも直前の層と直交する溶媒に溶ける特徴がある。

 

開業医・家庭群れの医療器具に使えるバイオセンサーの可能性

CDTは、大気安定性カソードを使用するにあたり、Flexible OLED構造の注入を幇助するための新たな空気処理可能な電子注入層(EIL)を開発している。EILデバイスの性能により、製造が容易になり、駆動電圧が低くなる。これにより、FlexOLEDアプリケーションが広がる。EILはRGBWデバイスと互換性があり、T50寿命は5000時間以上になる。

Flexible OLEDデバイスの構造・処理では、高仕事関数陰極金属層からの電子注入を促進するために、空気処理可能なドーピングされたETL層を薄く塗布する。これらは、情報量の少ないコンテンツ用のディスプレイであり、溶液処理されたポリマー発光材料をベースにしており、剛性および柔軟性のある基板上に印刷することができる。

材料の浪費が少なく、積層カプセル化が容易で、ガラスとの互換性のあるフレキシブル基板を使うことで、CAPEX(Capital Expenditure:資本的支出)が少なくなるため、低コスト化が実現できる。

情報量の少ない小型薄型のFlexible icon  OLEDディスプレイの利点として、より大きな画素の点光源LEDと比較して、均一で安定した発光が確認されている。

「性能と能力について見ても、5V未満の低電圧駆動で寿命はBlueでは8000時間だが、Green、Red、Whiteでは2万時間以上になっている。有効期限も10年以上ということになっており、そこそこ良くなっている。寿命のテストは15カ月間にわたり実施した」

 

Burroughes氏は、こうした単純なFlexible OLEDディスプレイのアプリケーションを挙げていった。その一つがスマートカード。ポケットに入れやすいが、バッテリーがないため、NFCの起動なり電圧も低くなる。

  ほかに、タッチ機能のあるヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)、スマート冷蔵庫のパネル、バイオセンサー、 パルスオキシメーター、玩具やゲーム、プロモーション製品、ウェアラブル、フィットネス、ファッション、民生用医療機器、小型アプライアンス、HDMI、スウィッチパネル、大型アプライアンス(冷蔵庫)、自動車用といったアプリケーションが考えられるとした。

このうち、HMIのプロトタイプでは、液体を対象物にコーティングするときのスロットダイ(Slot Die)は6inch(150mm)サイズでコーティングされ、OLEDは300μmの厚さで- 完全にフレキシブルな集積型静電容量式タッチセンサーになっている。

「では、ほかの分野はどうだろうか。私たちが興味を持っている分野として、医療用診断や検疫などの農業分野に使えるバイオセンサーがある。バイオセンサーといっても、医療機関と競争するということではない。もともと医療機器は高額であり、適用分野が異なっている。私たちのターゲットとしては、開業医や家庭向けのバイオセンサーを使った医療器具を想定している」

医療用バイオセンサーがあれば、大学病院や大学病院に行かなくても、一般の開業医のところで使ってもらうことができ、患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別するトリアージュでも使うことができる。救急車の中でなら、1滴の血液で測定するだけで、どのくらいのショック状態か計ることができるため、侵襲性(生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある刺激全般)もとても低くなる。

写真:CDT CTO Jeremy Burroughes氏

 

「OLEDをカップリング(結合)して、赤外線で動作する有機フォトダイオードをバイオセンサーに使っていくこともできる。リフレクタンスモード(Reflectance Mode)でパッチ型にすれば、パルスオキシメーター(Pulse Oximeter)に使っていくことができる。

肌の上に付ければ、自宅にいる高齢者のライフサイン(生体信号)をチェックして、異常が発生した場合でも、それを迅速に把握することができる」

Burroughes氏は有機フォトデクター(OPD:有機光検出器)についても興味深いと語り、新しいコミュニケーションデバイスであり、ドライバーデバイスであるとした。

有機フォトデクター(有機センサー)について、「業界の中でシリコンダイオードなどが使われているが、いま開発しているのはプリント可能な有機ダイオード(OPD)になっている。私が、ここに関心を持っているのは、あらゆるもののデザインを変更でき、好きなものを簡単につくることができるからだ。このダイオードでは、TA暗電流(-0.5V)がほしいということだった。輝きを増しているときは電流が大きくなる。もし、スペクトラムが広いものがほしいということであれば、ここからデバイスの効率性となっている。概念的にはOLEDと同じだが、デバイスの構造はOLEDと異なっている」

有機フォトディテクターは、従来のシリコン系フォトダイオードに比べプリンテッド・エレクトロニクスの特徴を生かすことで、薄さ、柔軟性、大面積センシングの特性を備える。

 

Flexible OLEDのアプリケーションごとの市場規模

X軸(横軸)に総寿命・有効期間(保管・貯蔵寿命)、Y軸(縦軸)に駆動時間(オンタイム寿命)で表したアプリケーション空間を示し、それぞれのアプリケーションに対して、どのくらいの寿命のものにしていかなければならないかを示した。

その中で、各アプリケーションの市場性についても触れ、▽バイオセンサー=約2000万ドル、▽パルスオキシメーター=約2000万ドル、▽玩具・ゲーム用ディスプレイと照明=約5億ドル、  ▽プロモーション製品・POPディスプレイ照明=約1億ドル、▽ウェアラブル、フィット/ファッションディスプレイ・照明=約5億ドル、 ▽民生用医療機器=2億ドル以上、  ▽小型アプライアンスディスプレイ&アイコン=約3億ドル、 ▽HDMI、薄型スイッチパネル=約5億ドル、 ▽大型家電ディスプレイ・照明=5億ドル、▽自動車用ディスプレイ・車内照明=10億ドル--といった数字も示した。

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大型家電ディスプレイ・照明や自動車用ディスプレイ・車内照明は要求される寿命は長く製品の中では最高レベルにある。ただ、今回の講演では、その下に広がる大きな裾となっているアプリケーションに焦点を当てた。汎用のバイオセンサーやパルスオキシメーターの多くは、それほどの寿命が要求されることなく、使い捨てタイプが多くなるという。

Burroughes氏は、CDTがFlexibel OLEDデバイスのR2R(Roll to Roll)処理との製造の互換性を検証したことや、スロットダイ方式による塗料コーティングするスロットダイコーティングが製造上好ましい経路であり、これにより6 inchまでのサイズのプロトタイプ製作をしたことを語った。ピクセルが均一発光するようにインクジェット印刷で作製されたポリマーOLEDデバイスは実用できる寿命を示し、材料やインク、プロセスを最適化することで寿命を延ばすことができる。

また、表意輝度テストの自動化や保管寿命をテストする加速試験についてもふれ、保管寿命試験を加速するため、摂氏60度90%RH(Relative Humidity:相対湿度)の湿ったオーブンにサンプルを保管することについても説明した。そして、12mm以上のベゼル(枠・縁)を使用したFlexibleおよびガラスのプラットフォームでは、水分・空気の側面侵入によって制限することにより、10年以上の有効期間を達成したとした。

Burroughes氏は、「低コストの単純なFlexible OLEDディスプレイにはたくさんの期待と市場性があるもののLEDと競合することになる。しかし、Flexible OLEDにはとても軽くて薄く、パッケージングやユニットに対してのデザインに多様性がありバイオセンサーの分野において、この感度を非常に高めることができる。いわゆるセントラルラボ(研究所)並みのパフォーマンスまで高めることができる」と改めて低コストの単純なFlexible OLEDの可能性に期待を示して、全体をまとめてスピーチを終えた。

 

(清水メディア戦略研究所 清水 計宏)