FLEX Japan 2018 講演レポート3

講演レポート
エスクワイヤー 金谷敏尊氏 デジタル経済のトレンドを語る
製造業におけるデジタル化とサービス化

 

写真:エスクワイヤー 金谷敏尊氏

 

企業の多くのビジネスはソフトウェアに依存していく

開幕日の4月19日後半は 、"Smart Data Session"(スマートデータセッション)となった。ここでは、東洋インキSCホールディングスでグループテクノロジーセンター事業開発部長に就く田中稔彦氏がセッションチェアとして進行役を務めた。

田中氏の紹介を受けて、このセッションの最初に登壇したのは、エスクワイヤーのシニアコンサルタントである金谷敏尊氏。金谷氏は、エンタープライズITを専門とするアナリストとして15年以上のキャリアがあり、数多くの大手企業向けITコンサルティングに従事してきた。近年は、デジタライゼーション/サービタイゼーションを研究対象とし、企業のビジネス戦略、マーケティング計画、イノベーションなどの支援を手掛けている。

この日のテーマは、「製造業におけるデジタライゼーション/サービタイゼーションの展望」。情報化社会の大きな変革期にあったモノづくり企業がソフトウェアをどのように捉えて変わっていくべきかの視点から新しい経済の潮流を語った。

「私の話は、デジタライゼーション、サービタイゼーションというテーマで製造業向けに整理したい。IoT、AI、ビックデータ分析といった

スマートテクノロジは一般的になりつつある。ただ、ビジネスとして見たときに、未成熟であったりする。特に製造業においても、ビジネスチャンスはいろいろあるが、イノベーションの段階にあったり、プランニングの段階にあるものが多い」

金谷氏は、デジタライゼーション、サービタイゼーションの市場に及ぼすインパクトから切り出し、企業の方向性を転換しようとしている実例として、グローバルカンパニーの経営トップの発言を引用した。

米Cisco(シスコ)のCEOであるJohn Chambers氏が「今日(こんにち)のビジネスで生き残りえるところは、デジタル化へ転換する企業だけだ」と述べており、プロダクトというよりデータビジネスへ舵取りをしているとした。また、米GE(General Electric)のCEOのJeff Immelt氏は「GEの現在の軌道によれば、GEはトップ10のソフトウェア企業になるだろう」と述べており、を数年前から製造業やインダストリー・ソリューションより、むしろソフトウェアの会社に転換していくことを強調していることを紹介。大きなビジネスモデルの転換が起こっているとした。

Ciscoは、ルーターやスイッチというプロダクトを製造販売する世界最大のコンピュータネットワーク機器のベンダーであり、GEは、航空機のエンジン、発電所、医療機器といった産業機器の世界トップメーカーとして創業100年を超えた。

「製造業企業が、Google、Apple、Microsoftなどがいる業界で互角の勢いを保ったり、トップ10入りを目指しているのは、非常にダイナミックな方針転換だと思う。GEについては、いろいろな噂もあるが、デジタル部門で大きな収益を上げていることは間違いない」  

 市場のオピニオンリーダーやアナリストの発言も挙げた。Marc Andreessen(マーク・アンドリーセン)氏が、「ソフトウェアは世界を食べている。あらゆる業界の企業は、ソフトウェア革命が起こっていると想定する必要がある」とし、企業の多くが収益的にもビジネス的にもソフトウェアに依存していくとした。リサーチとコンサルティングを手がけているアナリストファームであるFrost & Sullivan(フロスト・アンド・サリバン)は「デバイスメーカは、ソフトウェアカンパニーに転身するか、もしくは時代に取り残されるか、どちらかだろう」と方向性を示している。

Marc Andreessen氏は、WebブラウザーのNCSA MosaicやNetscape Navigatorを開発し、Netscape Communicationsを創設したことで知られ、いまはOpswareの共同創設者であるBen Horowitz氏と"Andreessen Horowitz"というベンチャーファンドを経営しているキャピタリストである。

 

IoTデータを使えば従来にないビジネスチャンスが出てくる

「このような戦略シフトがグローバルで多く起こっている。日本の経営者も非常に影響されているところがある。どうしてこのような状況になっているのか。IoTに代表される技術変革が進んでいるからだ。では、どうしてIoTは重要なのだろうか。その一つには、世の中にはモノ、オブジェクトが1兆5000億個ぐらいあり、その中で100億個がインターネットにつながっている。実際に存在しているものは、その100倍ぐらいある。今後、コネクテッドされる可能性があるモノが99%もあるわけだから、非常に大きなポテンシャルといえる」

 金谷氏はさらに続けた。

「もう一つはIoTの目的の一つとして、高頻度で多種のデータを大量に集めて、フィードバックできることがある。それをアナライズ(分析)することで価値が生まれる。それから、必要に応じてアップデートを施し、さらにモノのスペックを変え、提供できる機能を変えることもできる。このフェッチ(Fetch)、パッチ(Patch)、スイッチ(Switch)により、モノをアナライザブル(分析可能)、コントローラブル(制御可能)、ィファインナブル(定義可能)にすることこそ、コネクテッドが意味するところだろう」

写真:エスクワイヤー 金谷敏尊氏

金谷氏は、マシンやプロダクトがコネクテッドされると、どのようなことが実現するかの事例を挙げた。

米国イリノイ州モリーン市に本拠を置き、" John Deere(ジョンディア)"ブランドで農業機械・建設機械を展開する業界世界最大の(Deere & Company(ディア・アンド・カンパニー )は、「My John Deere(マイ・ジョンディア)」というネットサービスを提供している。John Deereのユーザーである農家は、マイポータルを介して自分の農機データを管理したり、外部のパートナー企業が提供するAPI(Application Programming Interface)を用いて、気象データやドローンで収集したデータを連携して、土壌の具合や農薬の散布ルートをチェックすることができる。トラクターにもディスプレイが搭載され、農薬の種類や散布ルートを確認するだけで、農作業が完了(完遂)できてしまう。一台のトラクターに10台ぐらいのトラクターが併走できるので一人で10人分ぐらいは働くことができる。スマートマシン化すると、そうしたことができる。

日本のケースとして、タイヤメーカーのブリヂストンの事例を挙げた。ブリヂストンは、鉱山用ダンプカーのタイヤにセンサーを取り付け、タイヤの温度と圧力のデータを取得し、ダンプカーに取り付けられたアンテナや車載コンピューターを経由して、鉱山の業務用サーバーに転送。そのデータを分析することで、タイヤの適切なローテーション方法やより効率的なダンプカーの運用方法の提案につなげている。これにより、高額なタイヤの費用対効果(ROI)が良くなり、IoTを使った"Tire as a Service"を実現している。ここには、ブリヂストンが開発した"B-TAG"と呼ばれるタイヤ圧力・温度管理機構が使われている。

「IoTに取り組むのは完成品メーカーでないとダメなように言われがちだが、そんなことはない。素材メーカーやパーツベンダー、特定のサプライヤーもIoTへの取り組みを始めている。 IoTのデータを使うと、これまでにないビジネスチャンスが出てくる。クルマの中にモニターの機器を設置し、ドライバーの優良度を判定し、保険料率を決める保険も出てきている。従来より3割程度安価な保険を提供している」

こうした「Smart Insurance(スマートインシュアランス)」の取り組みは保険会社だけでなく、自動車業界にも広がっている。2017年からElon Reeve Musk(イーロン・リーヴ・マスク)氏が創設した米 Tesla(テスラ)がオーナー専用の料率変動型の自動車保険"InsureMyTesla"を開始し、自動運転車の安全性とEV(電気自動車)のメンテナンスコストを踏まえ、安価な保険を提供している。つまり、EVメーカーが自動車保険に大きな変革をもたらしているわけである。

米Amazon.comは、2016年からコーヒーメーカー、プリンター、空気清浄機、家電製品などの機器に消耗品の残量や使用期限を感知するセンサーなどを組み込み、自動注文ができる"Dash Replenishment Service(DRS)"を開始している。スマートフォンのアプリをインストールしておき、対応機器をBluetooth接続して発注数などを設定しておけば、後は自動発注し、スマートフォンに通知が来る。Amaozn.comは、日用品をボタン1つで注文できる小型機器"Dash Button"も提供して、ボタンを押すだけで日用品の注文ができるようにもしている。

 

製品をサービスとして提供する"Product as a service"

コネクテッドされ、デジタル化されたモノは、どのようなベネフィット(恩恵・利益)をもたらすのか。これについて金谷氏は、「大別するとプロセスイノベーションとプロダクトイノベーションがある」としてこの両面からベネフィットについて説明した。

「日本においては、コストを安くするとか、メンテナンスを容易にするといったプロセスイノベーションのシェアが高くなっている」ものの、しだいにプロダクトイノベーションへの関心が高まるだろうと予測。

「プロダクトイノベーションをすると、これまでITの世界でしかやってこなかったようなことができるようになる。例えば、無料配布して、リモートでアクティべートすることにより、無償ユーザーから有償ユーザーへスイッチするようなフリミーミアム(Freemium)戦略を採って、新しい顧客基盤を獲得するといったこともできる。モノを売って終わりというのではなく、継続的に使ってもらうことで利用動向やニーズの分析が可能となる。いち早く製品やサービスを改良することでほかに顧客がスイッチされるのを防ぐことができる」

「製品(プロダクト)をサービスとして提供する"Product as a service"の歴史は意外と古いが、普及しだしたのは最近ではないか」と語り、その事例を挙げた。

GEは、LCC(格安航空会社)に対してエンジンをサービスとして供給している。LCCは、ギリギリで経営しているため利益率が低い。そのリスクは、エンジンや機体のメンテナンス不調によって航空機が飛べないなり、膨大な事業ロスが発生することである。そこでGEは、航空機が運行した分だけチャージし、トラブルが起きて飛行機が飛べないときはチャージしないというビジネスモデルを導入した。つまり、運行距離に応じて課金するというモデルだ。

素材の世界においても、"Material as a service"が出てきている。メキシコのモンテレイに本社を置くセメント会社のCemex(セメックス)は"、セメントをサービスのように供給する Cement as a service"を展開している。具体的には、顧客の設備にセンサーなどを導入して顧客の生産量などのデータを取得しながら、無駄なく製品を供給していくというものだ。Cemexは、世界50カ国以上の地域において建材を供給する企業だが、ここでもモノからコトへの転換が起きている。

金谷氏は、社会がサービス化したり、ビジネスがサービス化することは、経済学でも立証されていることだとして、30年以上も前に論文が出された「ペティー=クラークの法則」について語った。

この法則は、新興国などで経済の発展段階で、最初は国民経済に占める第一次産業(農林水産業)の比重が高いが、次第に低下していき、第二次産業(鉱業・製造業・建設業)、次いで第三次産業(金融・保険・情報通信・サービス業)の比重が高くなり、サービス化が進むということだ。第二次産品は技術革新により生産性が向上して、価格が下がりやすくなる。それに対して、第三次産業は価格が下がりにくく、相対的に第三次産業の総額が上昇していくことにもなる。

金谷氏は、X軸が一人当たりのGDP、Y軸が第三次産業の比率を示した世界各国の"Economical Impact of Servilization"の図表を映して、発展・成熟した国では第三次産業の割合が高くなっていることを示した。その後、シェアリングエコノミーとか、企業と企業またはビジネスとビジネスをつなぐAPIエコノミーといった新しいエコノミーが台頭しているが、ここにもデジタライゼーションとサービタイゼーションが大きく影響しているとした。

 

「プロダクトとは、いったい何だろうか?」

「新しいビジネスを創出することは、永遠のテーマと言ってもよく、単純明快な解はないが、IoTやスマートテクノロジが実現するイノベーションはビジネスを根本から変える変革の力を持っている」

金谷氏は、オープン・イノベーションという概念を広めたことで知られるHenry Chesbrough(ヘンリー・チェスブロウ)氏の考案したビジネスモデル・フレームワークを掲げ、ユーザーエクスペリエンスを重視することや、デジタルデータによるバリューを付与することがポイントになっているとした。

その中の一つであるレベニューメカニズムの説明の中で、「デジタル化した製品は"Minetizing by License, not by goods itself"、ライセンスを使ってマネタイズを考えていくべきではないか。Gemalto N.V.のDarim Rohmatallas氏は"Thinking like a Software Company."--つまり、ソフトウェアカンパニーのように考えるべきだと言っている。デジタル化するということは、物理的な制約を解いて、その上のデジタル、ソフトウェア、データといったレイヤーでビジネスをしていくことに近い」と強調した。

写真:エスクワイヤー 金谷敏尊氏

ここで、「プロダクト(製品)というのは、そもそもいったい何だろうか?」と根本的な質問を投げかけた。 

「DIYショップに行って、ドリルを買いたいと思ったとき、その耐用年数はおそらく4、5年だろうが、そのプロダクトは本体にライセンスを付与している状態で販売されている。日常的なことだから、あまりライセンスについては意識していないだろうが、パーペチュアル・ライセンス(永続的なライセンス、製品のご利用権)が付いていることになる。品物とライセンスを分けて見るということが大切だろう」

金谷氏はライセンスについて話を続けた。

「ライセンスをオープンにするか、クローズにするかは戦略的に進めていかなければならない。完全にクローズにしようと思えば、特許をとらないで秘匿するというオプションもある。一方で、ライセンス付きでオープンにするという考え方もできる。これを経営資源に当てはめていくといい。日本では2014年ぐらいに世界で特許件数はナンバー1だった。米国は2位だった。一方、その年の特許によって得られた利益(国益)を見ると、1位が米国で日本は残念ながら2位だった」

特許を取るだけでなく、しっかり活かしてマネタイズすることが必要であり、ここにおいて知財マネジメントの観点が一つのテーマになることを示した。

最後に金谷氏は次のようにまとめた。

「IoTは、アナライザブル(分析可能な)、コントーラブル(制御可能な)、デファイナブル(定義可能な)価値を創造し、物事を結びつけ、多くの新しいビジネスチャンスをもたらす。デジタル化/サービス化の時代に生き残るためには、デジタルイノベーションと将来のビジネスデザインを行うことが重要になる。それには今後、ソフトウェア企業のように考えてみる姿勢も重視される。そうしたことが、将来的にデータやソフトウェアが接続されたものやデジタル化されたもので競争上の優位性を生み出していく」

 (清水メディア戦略研究所  清水 計宏)