FLEX Japan 2018 講演レポート4

講演レポート
Xenoma 代表取締役CEO 網盛一郎氏が実践的視点から
「次世代スマートアパレルは世界をどう変えるか?」

 

写真:CDT CTO Jeremy Burroughes氏

 

ERATO で開発された「伸びるエレクトロニクス」を実用化

FLEX JAPAN 2018の2日目(4月20日)午前中は" Smart Textile Session"で始まった。Smart Textile(スマートテキスタイル)は一般の繊維素材では得られない新しい機能を備えたテキスタイル素材や既存の機能を新技術で得られるようにしたテキスタイル素材を指す。

4人目の講演者としてステージに上がったのは、Xenoma(ゼノマ)の共同創設者であり代表取締役CEOの網盛一郎氏。セッションチェアを務めた福井大学 産学官連携本部 客員教授・名誉教授 工学博士 堀照夫氏の紹介を受けて、網盛氏は「コンシューマーに近いところでビジネスを始めているスタートアップの1社としては、スマートアパレルが将来的に私たちの生活をどのように変えるかについて、お話しさせていただこうと思う」と切り出した。

網盛氏は、2014年4月にJST(科学技術振興機構)/ERATO(科学技術振興機構)の「染谷生体調和エレクトロニクス」プロジェクトに参画、インタフェースグループ[YT1] リーダーを務め、2015年11月にプロジェクトからスピンオフしてXenomaを設立した。Xenomaは東京大学・染谷隆夫研究室で開発された「伸縮性エレクトロニクス」を有効利用するためにスピンオフしたベンチャー。2016年4月にJST出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)からの出資を受けて、"Printed Circuit Fabric"(電子回路布)と呼ばれる、伸縮性回路を布上に形成する技術を活用したスマートアパレル"e-skin"を開発・事業化。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の 研究開発型ベンチャー(Seed-stage Technology-based Startups:STS)助成事業の支援により、2017年2月に法人向けに着用者の動きを認識するシャツ"e-skin DK"の販売を開始している。

「現在、Xenomaには20人いる。2015年11月に創業して、2017年2月より法人向けにe-skin DKという服を販売している。上半身のシルバーのところに、14個の歪みセンサー、伸び縮みを計測するセンサーを付けている。真ん中の胸にあるハブに電池やマイコン、Bluetooth、6軸の加速度(モーション)センサーが入っている。体幹の動きは胸で取りながら、身体の部位の動きを歪みセンサーでとっている。人間が動くと必ず服は変形する。この変形情報を人間の動きと捉えて、それを意味づけして、例えばゲームのコントローラーのように使ってキャラクターを動かしたり、人がどういう動きをしていたかを後で解析するかといった使い方ができる」

e-skin DKは、"e-skin Shirt"に"e-skin Hub"と呼ばれるコントローラーを装着することにより、Bluetooth通信でスマートフォンやPCに接続できる。軽くて着心地が良く、洗濯もでき、服でありながら、センサーを搭載してユーザーの動きを認識できる。

網盛氏は、CES 2017においてe-skin DKのデモをした動画を見せたが、「動画で見ただけではつまらないので、ライブでデモをしてみる」と、上着を脱いでe-skin DKを見せて、身体の動きに合わせて、さまざまなことができることを示した。

「私が着ているe-skin のセンサーがスクリーンに表示されている。これは"Xenoma Fitness"というフィットネスゲーム。走ると画面上のキャラクターも走り出し、走ったり、飛んだりしながら、シャツをインタフェースにしてゲームをすることができる」

スマートアパレルがゲームやVRなどのコントローラーとして使うことができ、格闘ゲームなら直観的で没入観のあるユーザー体験をもたらす。ダンスの動きに合わせて音を鳴らしたり、ゴルフのスイングの解析をしたりもできる。実際にゴルフスイングにおけるテストの模様について説明した。

「プロのゴルファーの方に良いスイングと悪いスイングを打ち分けてもらった。良いスイングのデータは1つ、いろいろな悪いスイングのデータ6つを機械学習にかけて、合計7つの特徴的なスイングをデータにして、 2500ほどのスイングを機械学習で判定した。25人の被験者の100スイングのデータを半分に分けて、半分を教師、半分を機械学習の判定にかけた。自身のデータが必ず学習データの中にある状態で判定したが、それでもいちばん悪い82%を除くと、軒並み90%以上の精度で判定ができる。たった2500スイングだが、実際に24人分のデータを教師データに使って、一人を判定すると機械学習がランダムだと7つの選択肢があり14%の判定率となるが、実際には20-40%ぐらいの判定率が出る。これはサイコロを振ったような確率だが、10万から100万のゴルフスイングのデータを集めれば、一般の方でも十分な判定ができるのではないかと思う」と思う」

ゴルフ練習場でスイングしたデータを使って、コーチがいなくても一人でスイングを判定することもできるようになるという。

 

独HUGO BOSSとゴルフスイングを解析するシャツを共同開発

写真:網盛氏

「Xenomaのコア技術はたった一つ」だとして、網盛氏は技術について説明をした。

「東京大学では、ストレッチャブル・エレクトロニクス(Stretchable Electronics)の技術を開発しており、それをテキスタイルに使えるようにした。布は伸び縮みするが、電気が流れるものは通常伸び縮みしないところ、伸縮性のあるワイヤーとセンサーを一般的な繊維に組み込める技術により、元の長さの1.5倍に繰り返し延ばしても大丈夫なようにしている。コネクター部、全システムを含めて1万回の耐久試験をしている。配線部だけであれば10万回の繰り返し試験をした。それでも壊れない。加えて洗濯もできる。洗濯ができるというのは、洗濯機の中に入れると、ほかの服と絡まってぐちゃぐちゃになってしまうが、そうした過酷な状況でも服が壊れることがないということだ」

従来の金属配線によるデバイスは、装着感が悪く長時間の測定には適していなかった。測定位置も限られていた。Xenomaは独自の技術開発により、様々な布上にセンサーを搭載できるようにし、着心地のいいスマートアパレルの開発に成功した。

「"e-skin DK"はマシンウォッシャブル。日本にカケンテストセンター(一般財団法人)というところがあり、ISO6330((家庭洗濯と乾燥試験方法)の規格に従って100洗までテストした。100洗で壊れたわけではなく、100洗するのに2カ月半とけっこうな費用がかかったので、そこまでにした」

東京・日本橋にあるカケンテストセンターは、官公庁納入や一般商取引における公正な第三者の立場に立つテスト機関。すべての繊維の原材料から製品までの一貫した検査に加え、繊維以外の皮革、ゴム、紙、化成品などの検査もしている。その範囲は、衣料分野だけでなく、生活資材・産業資材、ハイテク関連分野にもわたっている。

e-skinは、洗濯機で洗えるほどの優れた伸縮性と耐久性に優れている。Xenomaは、これを実現する布状電子回路を"PCF(Printed Circuit Fabric)"と呼んでいる。

「PCFは、PCB(Printed Circuit Board)だったり、FPC(Flexible Printed Circuits)として、次世代のエレクトロニクス要素の一つとして名付けている」

網盛氏は、2018年の年明けに米ラスベガスにて開催されたCES 2018でXenomaの展示ブースの写真を見せながら、ドイツのファッションデザイナーであり、紳士服の高級ファッションブランドであるHUGO BOSS(ヒューゴ・ボス)とゴルフのスイング解析をするスーツの開発をする共同プロジェクトを進めていると語った。両社は、e-skinの活用分野の一つとして、実際にゴルフ・プレイヤーのパフォーマンスを測定してデータを取得することに注力している。

「ここから先、スマートアパレルやスマートテキスタイルについて、若干否定的なことをいうが、それはスマートテキスタイルを批判しているわけでも、ディスペクトしているわけでもない。スマートアパレルについて語るうえで、ターム(term)を整理させていただきたい」

こう網盛氏は前置きして、「スマートアパレルとは何なのか?」について、業界の状況を踏まえて考え方を語った。スマートアパレルやスマートテキスタイルについて、「ファーストジェネレーション」「セカンドジェネレーション」「サードジェネレーション」と世代分けして整理した。

ファーストジェネレーションとして挙げたのは、アウトドア用品や衣服、登山用具の制作・販売を手がけている米The North Face( ザ・ノース・フェイス)のヒータージャケット製品のように服にモジュールやサーキットがマウントされているものである。

セカンドジェネレーションとしては、東レから出ている、着衣するだけで心拍数・心電波形などの生体情報を取得できる機能素材“hitoe”のほか、米Sensoria(旧Heapsylon)の装着型のヘルスセンサー付きスマート靴下や、心臓の鼓動を計測するセンサーを組み込んだTシャツとブラジャーのように着衣の中に組み込まれているものとした。 

サードジェネレーションとして、英マンチェスターに本拠を置くTamicare(タミケア)によって開発された完全にテキスタイルと書いてあった"Cosyflex"をいったん挙げたものの、「私は知らなかったのだが、Cosyflexを調べてみたらウェアラブル衣類をオンデマンド製造できる3Dプリンターだった。これにはセンサーとか、エレクトロニクスの機能はないが、概念として ポイントだと思っているのは、完全に服になったら、それはもはやエレクトロニクスとは呼ばないだろうということだ」

網盛氏は、Xenomaがサードジェネレーションに向かって進んでいることが重要なキーであると付け加えた。

 

マルチセンサーを組み込んだ着心地のいい服を目指す

「私たちは勝手にスマートアパレル(Smart Apparel)かスマートクロージング (Smart Clothing)と呼んでいるが、何のコンセンサスもない。敢えて、私たちで勝手にデファイン(定義)して、この3月に外にも出してみた。スマートアパレルというのは、電気や光のようなセンサーやアクチュエーターを使った機能性エレメントをファブリックの上に載せているものとした。それに配線を介してエネルギーを送っている。さらに、それは衣服や靴、バッグのようなアパレルとして使うことができる。アパレルを拡大解釈すると、ベッドのシートやカーシート、カーテンといったものも産業的にも使えるという点では重要になる」

網盛氏は、スマートアパレルについて、"スマートテキスタイル(Smart Textile)"、"プスードスマートアパレル(Pseudo Smart Apparel)"、"ファーストジェネレーション(1 st Generation)"、"1.5ジェネレーション(1.5Generation)"、"セカンドジェネレーション(2nd Generation)"と分類した図表を示した。

「スマートテキスタイルは機能的なテキスタイルのことを指すが、もちろんアパレルとしての機能があればスマートアパレルと呼べばいい。だが、機能の部分だけを指すときにはスマートテキスタイルでいいと思う。ただし、このスマートテキスタイルの研究開発がなければ、私たちは改良することができないので重要なパーツなのだ」

プスードスマートアパレルは、服の上にガジェットを付けて、機能的なアパレルを実現しているものを指す。

「ここで"プスード(Pseudo)と呼んでいるからといって決して偽物ではない。ただ、布そのものにはファンクションがないので、敢えてプスードスマートアパレルと呼ぶ。ただ、実際のマーケットを見ると、ここが最も大きくなっている。たとえば、Fitbitのようなアクティビティ記録デバイスが服の上に載ればマーケットは大きいですよね」

ファーストジェネレーションのスマートアパレルの歴史は意外と古いという。ヒーターシャツとか扇風機を内蔵したシャツとかがここに属する。米国のファッションブランド"Tommy Hilfiger"(トミー・ヒルフィガー)が2014年に発表した太陽電池付きのソーラーパネルジャケットもある。これは、文字通り、太陽光発電のできるソーラーパネルが背中についていてポケットのUSBケーブルからスマートフォンなどの充電ができる。

「サードジェネレーションのスマートアパレルはまだないから、いま来ているものを1.5ジェネレーションとした。これは、ある種の単一機能で胸の上にモジュールがあるものであれば、あまり耐久性はないかもしれないが、すぐにつくれてしまう。エレクトロニクス以外に、服にも機能があるものを1.5ジェネレーションと呼んでいる」

この世代として、英Signal Biometricsが開発した生体センサー搭載のレーシンググローブや生命徴候モニタリングシステム、仏ベンチャーBioSerenityの生体センター付き着衣、独Vision Body のEMSボディスーツ(VISION BODY)、ミツフジの生体情報が取得できる銀繊維ウェア、東レの機能素材“hitoe”、米Sensoriaの装着型のヘルスセンサー付きスマート靴下を含めた。

「私たちのe-skin DKは、ある程度たくさんのセンサーを使っており、僭越ながらセカンドジェネレーションに入れている」

セカンドジェネレーションには、台湾のAiQ Smart ClothingのBioMan(バイオマン)、シリコンバレーのスタートアップのAthosが製品化したウェアラブル(運動時の筋肉の使い方を数値化してチェックできる)を含めた。

「私たちが目指しているスマートアパレルはマルチセンサーを組み込んで、普通の服のように着心地がいいこと。この居心地のよさがとても重要だと思っている」

網盛氏は、「少しだけ市場の話をさせていただく」と、米Ameri Researchの市場予測データを示しながら、「市場の予測はうなぎ登りに上がっている。なぜ、このように市場規模が広がっているのかというと、Fitbitが開拓したウェアラブルデバイス市場に中国メーカーが廉価なデバイスを投入して、この市場がコモディティ化している。そのなかで次の市場と考えられているのがスマートアパレルの分野なのではないか」

さらに産業化するうえで、もう一つ大事なことはコンポーネントとして分けていくことだと力説した。

「先ほどのファブリックも普通の布のようなものを使ったり、ファブリックそのものがファンクショナルになることも、当然としてある。Xenomaはセンサーのインクは自前で作っていて、通常のTシャツがつくれるようなスクリーンプリントで自分たちで歪みセンサーをつくっている。しかし重要なことはワイヤリング(電気配線)であり、コネクター(接続器)である。この産業に入っていちばん困るのはコネクターの部分だと思う。スマートアパレル業界には、コネクターを出しているところは何社かあるものの、コネクター専業メーカーは一社もない。これから主戦場になるのかなと思っている。その先については、アパレルとは関係がなく、ハブ(デバイス)やソフトウェアといったように従来の技術の延長線上でできてしまう」

 

"Disease Prevention"(疾患予防)へ向かうロードマップ

「まだ皆さんはスマートアパレルを着る人がいるなんて信じられないですよね。私も、ときどき通勤で着ていても、そんな感じがするときがある。しかし、限りなく普通の服に近づけていくと、それは変なものではなくなり、逆に着ない理由がなくなる。それをどうやって実現するか?」

網盛氏は、スマートアパレルを普及させる戦略について、限りなく普通の服に近づけていけば、それは奇妙でも風変わりなものでもなくなり、着ない理由がなくなるとし、その理由として服を着ていない人はいないことを挙げた。

「ただ、最初に着るときは動機がいる」

その動機について、スポーツプレイヤーやゲーマーのように、楽しみのためにそれを着たいと思う人のほかに、「もう一つ、ペイン(痛み)ですね」と必要に迫られる動機を挙げた。つまり、病院での利用や認知症の方向であったりする。また、痛みを感じていないような乳幼児であっても、周りの方が心配して、様子を見守りたくなる。

「私たちはそうした人たちにスマートアパレルのプロダクトを売っていく。でも、プロダクトをサービスにする"Product as a service"を提供していくためには、アプリがなければいけない。ここについては、私たちだけが行うだけではマーケットが広がらないので、SDK(開発ツールキット)で全部公開する。どなたでも、自由にお使いください。お金はチャージしない。ただ、お願いしたいのはデータが欲しい。スポーツ用の利用でいえば、その中の心電データは、疾患予防のデータにして利用できうる」

心電データについて、健常者のコンディションでデータの収集ができる。病気になる前の医療データを解析することで予防医療への貢献ができるという。1社で、ソフトウェアからサービスの領域まで幅広く手がけようとすると、多くの人員だけでなく、多大なリソースが必要になる。

写真:網盛氏

「だから、意図的にSDKをオープンにした。私たちが考える本丸は、e-skinから得られるビッグデータを利活用する、その先のプラットフォーム戦略を見据えている」

ビッグデータの収集には課題もある。個人情報保護の観点だ。

「欧州の個人データの処理・移転に関する法律のGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)をはじめ、個人情報保護であったり、データシェアの問題があるので、法的な問題をクリアしないといけない。仮に、生体情報のビッグデータができたとしたら、それはどう考えても、人々の健康に資することができると思う。ここに疑いがある人はいないと思う。私たちは一言、"Disease Prevention"(疾患予防)をやりましょうというのが、とてもシンプルな未来像。"Disease Prevention"へ向かっていくのが、私たちのロードマップだ」

通常、心電は健康診断や病気になって病院・診療所にいって測るものだが、病気になる前に異常なデータが測定できれば、疾患予防が実現できるのは確か。そのためのデータが不足しており、データを収集しようというのが使命だという。

Xenomaは、ドイツの大学病院と共同で実証用e-skinヘルスケアバージョンを使って、認知症患者のモニタリング機器としての開発を進めている。

「認知症の患者さんは運動機能のある方だと、リストバンド型のセンサーは外してしまいがちになる。そこで、服であればというご相談をいただいた」

認知症患者のモニタリングだけでなく、歩行分析(パンツを利用)、睡眠障害のモニタリングもしている。 長時間にわたり、体温、腕の動きを記録し、パンツをはいてもらっているので、歩いている様子も分かる。

「パーキンソン病やアルツハイマー病には歩き方に特徴があるので、病気の症状を計測できる。寝ている間の異常行動も検知できる」

患者の状態を把握するためのバイタルサイン(生命兆候)というと、心電や脈拍、体温、呼吸、血圧を思い浮かべがちだが、動作・動きというのもとても重要な要素だという。

Xenomaは、e-skinの普及を図るため、2020年に1着100ドルでスマートアパレルをつくる目標を掲げて活動していることを明らかにした。

終盤で網盛氏は、「CES 2018において、ECG(Electrocardiogram:心電計)、6軸慣性センサー、歪みセンサー、などたくさんのセンサーを実装した"e-skin pajamas"が、Engadget(多言語で展開しているテクノロジーブログ/ウェブマガジン) の"Best of CES 2018"に選んでいただいた」ことを語った。そして、「"どういうふうにスマートアパレルが人の世界を変えるか?"についてだが、簡単に言えば"安心で安全な社会"が普通の服を着ているだけ実現できるということが私の結論だ」と強調してスピーチを締めくくった。

 

 (清水メディア戦略研究所 清水 計宏)