FLEX Japan 2018 講演レポート5

講演レポート
英国マンチェスター大学 繊維科学工学 Henry Yi LI教授
EUでのスマートテキスタイル・ウェアラブル技術の開発動向を語る

 

写真:英国マンチェスター大学 繊維科学工学 Henry Yi LI教授

 

マンチェスター大学は25人のノーベル賞受賞者を輩出

FLEX JAPAN 2018の会期2日目(4月20日)午前中は" Smart Textile Session"(スマート・テキスタイル・セッション)でスタートした。Smart Textile(スマートテキスタイル)は一般の繊維素材では得られない新しい機能を備えたテキスタイル素材や既存の機能を新技術で得られるようにしたテキスタイル素材のことである。ときに、"Smart Fabric(スマートファブリック)"とも呼ばれている。まさに、"スマートでインテリジェントなテキスタイル "である。

Smart Textile Sessionのセッションチェアは、福井大学 産学官連携本部 客員教授・名誉教授 工学博士の堀照夫氏が務めた。堀氏は、繊維学会、日本繊維機械学会、日本繊維製品消費科学会の3学会が連携してつくったスマートテキスタイル研究会の会長に就いている。

このセッションで最初に登壇したのが、英国マンチェスター大学(University of Manchester)の材料学部繊維科学工学専攻の教授に就くHenry Yi LI(ヘンリー・イー・リー)氏。"Smart Textile Wearable Technologies Development in EU" (EUにおけるスマートテキスタイル・ウェアラブル技術開発)をテーマに、マンチェスター大学におけるスマートテキスタイルに関係する研究のイニシアティブや英国とEUにおけるスマートテキスタイルとウエアラブルの技術開発の戦略的な取り組みについて説明した。併せて、同大学の研究プロジェクトや多くのEUパートナーとの共同研究についても紹介した。

Yi Li氏は、繊維生物工学・情報学会の会長であり、“Journal of Fiber Bioengineering and Informatics”(ファイバーバイオエンジニアリングと情報学のジャーナル)の編集長も兼務している。さらに、Royal Society of ArtのライフフェローやTextile Instituteのフェローなども務め、中国の数多くの大学の準教授も兼ねている。中国、米国、オーストラリアで46件の特許を取得し、27件のIP資産を業界に移管している。現在、保有している特許は76件以上に上る。マンチェスター大学では、43人の博士課程学生と130人以上の研究スタッフを監督する立場にある。

マンチェスター大学は、英国マンチェスターにある国立大学。イングランドで最初にできた都市大学の一つで100年以上の歴史がある。その成り立ちは、1851年に設立されたオーウェン・カレッジ(Owens College)にまで遡る。1903年にマンチェスター・ビクトリア大学(The Victoria University of Manchester)となり、英国発の都市型大学(シビック・ユニバーシティ)として発展した。また、マンチェスター工科大学(the University of Manchester Institute of Science and Technology:UMIST)とパートナーシップを築きてきたが、2004年に両大学が統合してマンチェスター大学が誕生した。

特徴的なことは、20世紀の発明に数多く貢献し、これまでに物理学者のジョゼフ・ジョン・トムソン(Sir Joseph John Thomson)や物理・化学者のアーネスト・ラザフォード(Ernest Rutherford)、物理学者のウィリアム・ローレンス・ブラッグ(William Lawrence Bragg)、生物学者ジョン・サルストン(John Sulston)、物理学者アンドレ・ガイム(Andre Geim)をはじめ延べ25人のノーベル賞受賞者を輩出していることである。

 

マンチェスター大学の研究開発体制

Henry Yi LI氏は演台に上がると、簡単に自己紹介をした後、「マンチェスター大学における新素材に、特にテキスタイルの研究課題やウエアラブルの用途とともに、英国、欧州で取り組まれているいくつかの戦略的な研究、ウエアラブルの標準化の話もしたい」と切り出した。

マンチェスター大学のある英マンチェスターといえば、プロサッカークラブの"マンチェスター・ユナイテッドFC"を思い浮かべる人も多いかもしれない。ただ、この都市はすでに18世紀後半から19世紀にかけて産業革命の中心地となり、技術革新による産業構造の変化と経済発展で英国をリードしたことでも知られている。20世紀に入って経済的地位は下がったものの、今日でも商業、高等教育・メディア・芸術・大衆文化などにおいて英国北部の中心地である。こうした歴史的な背景があり、同大学はイノベーションの一大拠点になっている。

「これを立証する一つとして、生物学者ジョン・サルストン(John Sulston)氏や物理学者アンドレ・ガイム(Andre Geim)氏を含め、延べ25人のノーベル賞受賞者を輩出していることがある。7年に一人の割合で、マンチェスター大学の教授がノーベル賞を受賞している」

イノベーションの学風のあるマンチェスター大学では、エレクトロニクスの分野でも世界を牽引している。特にウエアラブル端末やスマートテキスタイルズなどの新領域での研究も盛んである。

マンチェスターはスマートシティプロジェクトの本拠地でもあり、マンチェスター大学は、政府、民間セクターが協力して、IoT(Internet of Things)により都市レベルでデータを管理するデータポータルになることを目指すSmart-City Initiatives(スマートシティ・イニシアティブ)を進めている。大学での研究は企業にも解放している。こうした活動は、英国国内だけでなく、欧米からも高い関心を集めている。

近郊のサンヘンには、先端材料に関する科学研究センターとして"Sir Henry Royce Institute"が開設され、スマートマテリアルのエネルギー管理にフォーカスした研究をしている。これは、マンチェスター大学がハブになっているリーズ大学、リバプール大学、シェフィールド大学の9つの大学のほか、国立原子力研究所といった研究機関のパートナー研究所になっている。

もう一つ、研究推進機関として、Graphene Engineering Innovation Centre(GEIC:グラフェンエンジニアリングイノベーションセンター)がある。ここでは、強靱で軽くて薄い素材として知られるグラフェン (Graphene)をどのように研究所の中でつくって大量生産していくかという研究をしている。

さらに、地元のさまざまなエンジニアリングスクールが新しいビルに統合し、Manchester Engineering Campus Development(MECD:マンチェスター・エンジニアリング・キャンパス・デベロップメント)になり、一大開発拠点にもなっている。ここでは、さまざまなマテリアルサイエンス、コンピューティングサイエンス、エレクトロニクスといったすべてのものが統括されている。

Yi LI氏は、大学の研究・革新のイニシアティブについて概観した後、「では、どのよう関連しているのか、戦略的な開発がどうなっているのか、EUの中でどう機能しているのかを見ていきたい」とLI氏は本題に入っていった。

「私は、2015年にマンチェスター大学に招聘された。そのときに、英国の大学のETP(European Textile Platform)としてノミネートされた。これはテキスタイル向けのプラットフォームである。大学のテクノロジーがEUコミッションで意義を評価された。その結果、テキスタイル産業の戦略的なブラッとフォームの構築に貢献していけると思った」

ETPは、未来のテキスタイルと衣服に向けた欧州のテクノロジー・プラットフォームであり、テキスタイルの研究とイノベーションに特化した欧州最大のネットワークでもある。その主な目的は、国境を越えた共同研究と、研究成果の産業分野への迅速な応用を通して、EUの繊維衣料産業の持続的な競争力を確保することだ。テキスタイルETPには、現在、産業・研究・高等教育機関の約175の組織がメンバーになり、500人以上が登録されている。  

「私はETPにおいてスマートテキスタイル、スマートテキスタイルの戦略計画に参画することができた。パーミリックテキスタイルとか、持続可能なテクノロジーといったものに取り組んだ。この分野は、2016年にディスカッションがなされ、いま戦略的な計画として、実装されている部分になっている。2017年、2018年も進展しており、大きなイニシアティブになっており、ECにサポートされている。ICTやIoTといった分野にフォーカスされ、テキスタイルが中心というわけではないが、テキスタイルが、今後の開発に向けての主要エリアであると特定されている」

 

大規模パイロット"Horizon 2020"でテキスタイル、ウエアラブルも研究対象に

2014年1月から、欧州全体の国際競争力・技術力の向上を目的にしたFP7(第7次欧州研究開発フレームワーク計画)の後継フレームワークプログラムとして、EU(欧州連合)はIoT(Internet of Things)の大規模パイロット(LSP)として"Horizon 2020"(略称:H2020)がスタートした。これは、FP7と同様に、7年間(2014~20年)の方向性を規定し、位政策である"Europe 2020"(2010年に発表されたEUの中期成長戦略、略称:E2020)のフラッグシップ・イニシアチブのうち、イノベーションユニオンを推進する。競争・イノベーションフレームワークプログラム(CIP)、欧州イノベーション・技術機構(EIT)を含み、イノベーションを強く意識したプログラム構成が特徴。 ICT、ナノテク、材料、バイオテクノロジー、先進製造、宇宙を中心とした産業競争力の確保し、産学連携の枠組みであるJTI(ジョイント・テクノロジー・イニシアチブ)の推進することを主目的にしている。

「Horizon 2020では、スマートテキスタイル、フレキシブルでウエアラブルなエレクトロニクスが、テクノロジー分野で重要なトップ10に入れられ、人間社会に大きな影響をもたらすと認識されるようになった。ここでは、生産キャパシティや電力管理の問題が、スマートテキスタイルのテクノロジーの障壁になっていることも確認された。その中で、エレクトロニクスデバイスを布に統合していくことの重要も再認識された」

Horizon 2020では、いくつかのプログラムが平行して走っている。その一つとして、スマートエコシステム向けの"H2020-IOT 01-2016 Pilot 3"("Internet of Things Large Scale Pilot 3, 略称:LSP3)があり、その中でテキスタイルが主要分野の一つであると特定されている。

「各プロジェクトは900万ユーロ相当になっている。こうした投資をしながら、生産からコンサルティングまでのサプライチェーンを構築しようとしている。私は、ここでスマートテキスタイルやウエアラブルデバイスのハードウェア関連をコンサルタントとして見ている。IT、通信の企業と協業しながら、素材、コンポーネントをシステムの中に取り入れようという取り組みをしている。これはテクノロジーの観点だけで考えるのではなく、クリエイティブなアートやデザインと統合することも必要になる。また、消費者とのインタフェースをどうするのか、ライフスタイルの中でどう身に付けるのか、高齢化社会にどう対応していくのかといった課題もある。専門家の意見を取り入れながら、安全性、セキュリティ、法律施行、ヘルスケアといったものも検討している。この中に、さまざまなイニシアティブが入っており、すべてを統合していくような形になっている」

ここで、Yi LI氏は、MM Research InstituteとStatistaがリリースしたウエアラブルデバイスの市場予測をスクリーンに映した。2015年に200億ドルだったが、2025年は700億ドル規模となり、そのCAGR(年平均成長率) 50%と見込んでいる。2015年のウエアラブルデバイスの出荷個数は49億3500万個、2019年には114億4500万個になると予測している。

「これが、ウエアラブルデバイスの市場予測であり、何十億ユーロの規模で伸びており、ユニットの売り上げも拡大している。Yole Developpementの調査を見ても、家電(CE)、ヘルスケア、産業において、スマートウエアラブルは重要な要素となっており、いわば"スマートイニシアティブ"になっている。この分野において、ウエアラブルは小型化、スマート化がトレンドとなっている」

有望市場と見込まれているウエアラブルデバイスについて、今後どうなっていくのかについて議論を重ねているとろろだとYi LI氏は語った。コンポーネントやトランジスターがより小型化していく中で、こうしたコンポーネントテクノロジーをどのようにしてエレクトロニクスに取り込んで統合化するのか? ウエアラブルに微細化されたシステムをどのように載せていくのか? --といったことが課題になっているという。

「この微細化されたシステムが、さまざまなモホロジー(morphology:形態論)やチップも含めて統合される形で、糸や繊維の中に織り込んでいくことになる。いくつかのイニシアティブがある。例えば、スマートファイバー・イニシアティブである。これは認められたプロジェクトもあるが、すべてのエレクトロニック・コンポーネントを布からではなく繊維から始めていくことがある。コンポーネントを糸を織る段階でどのように入れていくのかというようなイニシアティブもこの中にある。これは将来の開発にとって基本的な要素になってくる」

 

どのようにファブリックに機能を一体化させて盛り込むかが課題

写真:Henry Yi LI教授

Yi LI氏は、EUにおける科学分野の研究開発への財政的支援制度であるFP6(第 6 次欧州研究開発フレームワーク計画)とFP'7(第 7次欧州研究開発フレームワーク計画)について振り返った。

「FP6、FP7のイニシアティブでは、いくつかの大きなイニシアティブ・プロジェクトが承認され、異なるコンサルタントチームによりウエアラブルデバイスが実装されている。その事例の一つとして、バイオテックス(BioTechs)、プロテックス(Protex)というものがある。このプロテックスというのは、どのようにコンポーネントを統合していくかということ課題でなる。そこで、まずパッチをガーメント(garment:衣服)に入れて、ウエアラブルにしていくところから始めた。次に物理的なセンサーの統合の仕方も検討した。さらに完全な統合を図るため生理学的な視点も入れた」

FP7において、スマートテキスタイル、フレキシブルでウエアラブルなエレクトロニクスがフォーカスになっている。 つまり、伸縮性のある基板を使うことで、エレクトロニクスをテキスタイルの中に統合ていくということだ。CPCSA(Combined Collaborative Project and Coordination and Support Action)プロジェクトがあるが、こここではどのようにファシリティトラッキングするのかということがテーマになっている。

FP7グループには10件のプロジェクトがあり、そのうち8件はCP(Collaborative Projects)であり、1件はCSA (Coordination and Support Action)、1件はCP-CSA (Combined Collaborative Projects and Coordination and Support Action)となっている。合計の投資額は 637万ユーロ。このうち、EUからの寄付は453万ユーロを占める。これらのプロジェクトに94の異なる産官学ま機関・団体が参画している。このプロジェクトから、3つのスピンオフ、24の特許、48のジャーナルピアレビュー論文などの結果がもたらされ、開発から製造、革新へのバリューチェーンにそったさらなるサポートの必要性を示した。

「これまで、非常に広い範囲にわたり、さまざまなデバイスやシステムがこうしたプロジェクトで開発されてきた。スマートテキスタイルやフレキシブル&ウエアラブルのエレクトロニクスだけ見ても10のプロジェクトが国境をまたがって推進されており、研究機関や大学など多岐にわたるセクションのMEやSEなど大勢の人が参加している。スマートエコシステムのためのウエアラブルに関するPilot 3あり、これはまさにスマートテキスタイルと関係している。パッチ、衣服、ファブリック、腕時計などに新しい機能を加えた、身に付けられるデバイスであり、ファイバーをはじめとする、さまざまなウエアラブルができている。今後のテキスタイルの課題は、さまざまな機能も実行しながら、なるべく柔軟性がある着心地のいいものにしていくことである。これらを両立することが業界にとってのチャンスでもあるわけだ。そのポイントは、すべての機能をファブリックの中に埋め込めばいいというのではなく、どうやって一体化させて盛り込むということである。またモリタリング機能も必要になるだろう」

Yi LI氏は、そうした中で新しい技術や化学といったさまざまな研究開発も必要となり、それによってファイバーテキスタイルが改良されていくとした。

「併せて、実用化を図る上で供給と需要の両サイドから考えることと、セキュリティやプライバシーといった要素も忘れてはならない。さらに、複数の用途のシナリオをテストをしていく必要もある」

この2、3年間だけを見ても、EUや英国内においてたくさんのプロジェクトが実施されており、一つのプロジェクトだけで1500万ユーロ(約19億4005万円)をかけるものもある。こうした大規模プロジェクトのうち、原材料をIoT、IOCのシステムに結びつけていくプロジェクトとして、"IoT-01-2016: Pilot 3"を概観した。

「IoT-01-2016:Pilot 3のプロジェクトには、マイクロナノエレクトロニクス(Micro-nanoelectronics)をはじめ、センシングやアクチュエーション、エネルギーの節約・管理、ワイヤレスコミュニケーション、低電力のコンピューティング、テキスタイル、スマートファブリックといった要素がウエアラブルのソリューションとして盛り込まれている。すでにプロトタイプが開発されており、さまざまな機能性を示している。その中のいくつかは、すでに市場に出ているものもある」

Yi LI氏は、ここでウエアラブルにフォーカスしたIoTのエコシステムの図表を示した。「デバイスのアプリケーションがあったときに、業界とエンドユーザーを詰めて、新しいビジネスモデルも伴う必要がある」とし、デバイス、アプリケーション、ビジネスモデルが相互に関係し、スタートアップの起業家や関係企業、研究開発者、市場も含めることで全体のエコシステムができあがっていくことを説明した。

 

2015年に"Graphene Smart Textiles"のプロジェクトを開始

続いて、マンチェスター大学のウエアラブルのプロジェクトの事例に話題を移した。

「2015年に大学において新しい"Graphene Smart Textiles for E-Healthcare"のプロジェクトを立ち上げた。これは、さまざまなリサーチコンポーネントおよびグラフェン(Graphene)といったマテリアルの科学を含むものである。コンピューターサイエンスを使いながらも、ヘルスケアや医学の学科にも直接リンクを持たせた。では、それを統合して、どこにフォーカスを当てていくのかを検討するなかで、テキスタイルのウエアラブルに対応していくことになった」

プロジェクトを推進するため、マンチェスター大学内の物理、化学、IEEE(米国電気電子学会)、NGI(Next Generation Internet)といった関連組織と、外部パーティである材料向けのETP(European Technology Platforms)、ICE、E-Textiles Weldいった複数のプロジェクトを統合した。

炭素原子が平面上に正六角形で連なるように広がるグラフェンは、鋼より200倍のダイヤモンドよりも高い強度を持つ。導電性が高く軽い夢の素材。単層のグラフェンを分離することは不可能だとされてきたが、2004年に英マンチェスター大学でグラファイト(黒鉛)の欠片とセロテープを使って得られることが発見され、アンドレ・ガイム(Andre Geim)教授とコンスタンチン・ノボセロフ(Konstantin Novoselov)教授らが、2010年にノーベル物理学賞を受賞している。グラフェンは、450年以上前に北部イングランドの湖水地帯で最初に採掘された黒鉛から製造されている。

マンチェスター大学では、衣類へのプリントで利用されるスクリーン印刷技法により、電気伝導性を持つ酸化グラフェン製のインクで綿織物に直接電子回路をプリントしてウェアラブルバッテリーを開発しているほか、英国企業inov-8(イノヴェイト)と協力してグラフェンを用いた世界初のスポーツシューズを商品化をしている。

「一つの事例として、“ETEXWELD”というプロジェクトがある。ここでは、技術的なチャレンジ、コネクト(接続)できるインタラクティブな洋服であるE-Textileを作るために、どのような技術的なチャレンジが必要なのかということを検討した。ここで、フォーカスしたのは、インテリジェントな消防服を作ることだった。各種センサーと通信機能を組み込み、それらを一体化して機能性を追求することを考えた。ここでは、単にセンサー情報を検出するコンポーネントを見ていくだけでなく、それをどのような形で実現していくのか、つまり消防士がどうした行動をとり、どのようなリスクにさらされているのかをしっかり把握して、どのような消防服をデザインすれば、いろいろなリスクを軽減できるかを研究した。データを感知するだけでなく、さまざまな想定を考慮に入れて、具体的にどのようにしてリスクを低減させるのかを検討した」

例えば、消火活動の動きを検知し、熱に対するストレスを測定することで、危険を検知してアラームを発するとか、作業中のリスクが高いケーとして、心不全になる可能性があることが分かった。それらにどのように対処するかということを話し合った。その活動の中で、センサーと通信の機能だけでなく、もっと重要なことは、消防士が直面する背景についても理解し、彼らの動作に柔軟に対応できるデザインにすることだった。

「プロジェクトの中で、消防服の熱耐性がどれぐらいあるのか、火炎による発熱に対してどのようなリスクがあるのかなどを測定し、そうした実データを組み合わせることによって、効果的に消防士のリスクを低減できる消防服を実現しようとした。さまざまなデータを集約・計算し、モニタリングした生理学的信号から被験者の健康状態や生理学的状態をチェックし、どれぐらいのストレスにさらされているのかを細かく調べながら、それらを一つにまとめて上げていった」

Yi LI氏は、 さらに"FBD_BModel(Fashion Big Data Business Model)"のプロジェクトについても紹介した。このプロジェクトは2017年12月にスタートし、2020年11月までの3年間にわたる。その目的は、接続されたデータ駆動型サプライチェーンを通して、数多くのデータベースサービスに関連するデジタル技術プラットフォームを構築し、革新的で高付加価値のファッションと機能的な衣服を実現することにある。

この統合プラットフォームは、ビッグデータ環境において、ファイバー、糸、ファブリック製造から、パーソナライズされた衣服の設計・製造・流通まで、さまざまなタイプのファッション・テキスタイル・サプライチェーンに特化した持続可能なビジネスモデル・アーキタイプの開発を支援する。これにより、ファブリック材料段階から消費者へ商品を届けるのでのスムーズな情報フローを実現することで、新たなサプライチェーンの生成も図る。

最後に、2018年5月14-15日の両日にマンチェスターで開催される"IEC TC 124"総会と 同年7月25~7月28日にマンチェスターで開催のされるシンポジウム"Textile TBIS 2018"について告知した。

IEC TC 124は、IEC( International Electrotechnical Commission)の中の新しい委員会でウエアラブル・エレクトロニクスのテクノロジーに焦点当てたグループの総会。最初の総会を2017年9月に韓国ソウルで開催している。今回は、第2回となり、グローバルでともにスタンダードとなる言語を開発し、スマートウエアラブルを広く活用していくことがテーマになる。

Textile TBIS 2018は、第11回を迎える"Textile Bioengineering and Informatics Symposium"(繊維生物工学&情報学シンポジウム)で、7月25日から28日の3日間 、マンチェスターで開催される。このシンポジウムのテーマは、いかにテキスタイル、ファイバーサイエンスを作っていくのかである。つまり、素材・材料をエレクトロニクスに統合し、それを生物学的な人間の身体と親和性を持たせながら、どのようにインフォマティックなものに落とし込んでいくまかが焦点となる。

Yi LI氏は、「ぜひ、皆さんにもご参加いただければと思う」と語り、講演を締めくくった。

 (清水メディア戦略研究所 清水 計宏)