SEMI通信 2019年9月号 レポート1

標準規格こそSEMIの最大の業界貢献

 

浜島雅彦=SEMIジャパン 代表

 

SEMIという組織をご存知の方の大半が、「SEMIイコールSEMICONの主催者」という認識をされているのではないでしょうか。もちろん、SEMICONはSEMIの50年近くにわたる発展を支えてきた柱ですが、この一面しか認めていただけないのは、非常に残念なことです。SEMIは、展示会以外にも様々な活動を通じて、会員ならびに業界の発展を支援しています。中でも業界に最も大きく貢献しているのは、個人的にはSEMIスタンダードと呼ばれるエレクトロニクス製造技術の標準化だと思うのです。

スタンダード写真

 

SEMIスタンダードの成立まで

SEMIが結成された1970年頃は、半導体製造装置の専業メーカーが成長をはじめた時代です。当時は展示会がビジネスに果たす役割が今以上に大きく、半導体製造装置・材料業界が中心となる展示会がないことは関係者の大きな悩みでした。そこで「それなら、自分たちで作ってしまえ」と考えた当時の米国装置企業経営者たちが、パロアルトのホテルの一室に集まり、その場でSEMIの設立を決めました。

SEMIの設立の翌年にはサンマテオで待望の第一回SEMICON Showが開催されましたが、これは半導体業界のサプライチェーンが一堂に会する新しいプラットホームの誕生に他ありませんでした。ここで、業界のあらゆる関係者が意見をかわし、何か新しいことができないかと考え始めたのです。そこで俎上に上がったのがシリコンウェーハの外形寸法の標準化です。

当時は2,000種以上のシリコンウェーハの仕様が存在し、その細かな差異にこそ自分たちの技術ノウハウが詰まっていると考えられていたのです。しかし、それではシリコンウェーハのサプライヤーは注文ごとに装置を再調整する必要があり、また在庫を他の注文に振り当てることもできません。こうした非効率を背景に、1973年にシリコンウェーハの供給不足が生じ、一挙に標準化の動きが加速しました。

1973年5月にSEMIの立ち合いの下、標準化の可能性を議論するためシリコンウェーハメーカーの会合が開かれ、その日のうちに直径2インチと3インチのウェーハの外形寸法標準案をまとめました。これにはSEMI会員の多くを占めていた装置メーカーの関心も高かったようです。3インチウェーハのキャリアを製作しても、ウェーハの仕様によって、すり抜けてしまったり、ひっかかってしまったりと使い物にならず困り果てていたのです。

さて、こうして生まれた仕様案は幸いにも市場に急速に浸透し、翌年初めころには市場の8割以上のウェーハに適用されるようになりました。これを受けて1974年2月の会合において外形寸法仕様案は承認され、最初のSEMIスタンダードとなったのです。

 

代表的なSEMIスタンダードは「FA」と「安全性」

翌1975年のSEMICON ShowでSEMIスタンダード委員会が正式に組織されましたが、SEMIのスタンダード活動に対する業界の期待は大きく、その活動はヨーロッパ、そして日本へと拡大し、対象となる製造技術分野の範囲も拡大してゆきました。その中で、特に広く業界に普及し、大きく貢献をしたのは、原点となったシリコンウェーハに加えて、半導体製造の自動化(FA)推進と安全性(Safety)確保という2つの分野だといえるでしょう。

FA分野では、装置間の物理的インターフェースとして、標準化されたウェーハの外形寸法をベースに早い時期からウェーハキャリアの仕様標準化が始まっており、その受け渡しをするロードポートの仕様や、キャリアのミニエンバイロンメント化、いわゆるFOUP(Front Opening Utility Pod)等へと発展しています。

また、製造装置の通信プロトコルの標準化の果たした貢献も大きく、通信上の装置の汎用モデルの規定など、他業界よりもいち早く、各社の装置の通信仕様が国際的に標準化されました。半導体製造装置は極めて高度な科学技術や工業技術の粋を結集したState-of-Artのマシーンであり、装置が担当するプロセスごとに細分化され、少数のメーカーによって供給されています。ですから、装置相互のインターフェースやインターオペラビリティが確保できなければ、各種製造プロセスを統合したラインを組むことがそもそもできません。SEMIの通信スタンダードがあればこそと思うのです。

一方、ICの製造は、可燃性や毒性のある反応性の高い材料を扱い、また高電圧や放射線を使用するなどの危険性を伴うため、十分な危険の除去・封じ込めとリスク管理が必要です。これはグローバルに共有すべき問題ですが、安全性に対する思想はICメーカーそれぞれで大きく異なっていました。ICメーカーは自社の安全仕様を装置発注のたびに説明し、製造装置メーカーは注文にあわせて装置を改造するという非効率が、コスト面でも納期面でも発生していたのです。

SEMIスタンダードで開発された様々な安全ガイドラインは、業界内で合意された合理的な安全性能と、世界各国の安全や環境規制の要求をカバーしますので、これに準拠することで業界のベストプラクティスと法的要件の両方を満たす装置設計が、個別に対応するよりも容易に実現できるようになりました。そのため2000年代に入ると日本市場でも普及が大きく進展し、現在では、世界の半導体製造装置は標準的にSEMIの安全ガイドラインに準拠するようになっています。

 

これからのSEMIスタンダードを支えるために

このように、SEMIスタンダードは業界の効率化とイノベーションを促進する上で、多くの人の目にはとまっていなくても必要不可欠な、まるで空気中の酸素のような存在となっているのです。実はそこに大きな落とし穴があるのです。呼吸をしたからといって酸素にお金を払うつもりがない、という人が多いのです。

SEMIスタンダードは世界で5千人を超える専門家の手弁当のボランティアによって支えられています。それでも、SEMIは会議開催、運営事務経費、国際投票などのインフラの開発と維持など、多くの経費を負担しており、展示会などのSEMIの他の事業から得られる利益をこれに当てています。こうした業界貢献度が極めて高いプログラムの持続可能性を確実にするためにも、利用者のコスト負担が公平に行われるようにしなければなりません。これはSEMIジャパンの代表としての大きな責任であると受け止めています。この点においても、皆様のご支援を強くお願いするところです。