SEMI通信 2019年12月号 特別レポート

業界トップエグゼクティブが語る「車・産業のスマート化」の未来

 

SEMIジャパン 代表 浜島雅彦

 

半導体があらゆる産業のキーデバイスとなる時代に突入した。自動車、産業、医療、家電などその領域は多岐にわたるが、その中でも高成長が期待できる領域となるキーワードが「スマート化」の部分だ。

今年は5月に続いて2回目の開催となるSEMI会員向けイベント「SEMIジャパン Members Day」。今回は、スマート化の中でも特に注目度が高い「車と産業」に光を当て、世界の最前線を走る日本のデバイスメーカ3社(デンソー、ソニー、キオクシア)のエグゼクティブの方にご講演いただいた。参加者は200名を超え、講演後の質問や交流会の場でも意見を求める人々が後を絶たず、同テーマへの関心の高さがうかがえる場となった。

本稿では、改めて同イベントで講演された内容を簡単にご紹介させていただく。

 

デンソー「車の進化とカーエレクトロニクス」

デンソー エクゼクティブフェロー  先端技術研究所所長  川原 伸章氏

デンソー
エクゼクティブフェロー 先端技術研究所所長
川原 伸章 氏

トップバッターとなったのはデンソー 先端技術研究所所長の川原 伸章氏。テーマは「車の進化とカーエレクトロニクス」で、自動車の発展の方向性や、業界動向、注目技術を総括いただいた。自動車は今、100年に1度の大変革期を迎えており、CASE:Connected(つながる)、Autonomous(自動運転)、Shared(カーシェア)、Electric(電動化)をキーワードに、安全・快適で環境にやさしい車づくりが求められるという。いずれの領域においても半導体はCASE時代の技術革新のコアとなる。

ここでは、川原氏のご講演内容の中でも興味深いと思われたものを2つ取り上げる。

1つ目は、自動車の安全装備の考え方だ。同社の安全・安心のコンセプトとして大きく2つある。「もしもの安全」と「いつもの安心」だ。「もしもの安全」は緊急時の危険回避であり、「事故の直前直後における被害軽減」を主としたもので、従来からある取り組みだ。一方、「いつもの安心」はドライバーのミスを未然に防ぐよう、車を運転しているあらゆるシーンで「認知」「判断」「操作」を支援するというもの。今後、この「いつもの安心」的要素がどんどん広がりを見せるようだ。

同社では、この安全・安心を実現するシステム構成の要素として、HMI(Human Machine Interface)、走行環境認識、車両運動制御、情報通信の4分類に分け、高度運転支援/自動運転を検討している。例えば、自動運転では、走行環境認識として、ミリ波レーダーやカメラ、Lidarといったセンサーで車の周囲に何があるのかを認識し、車の位置の推定を衛星電波や高精度地図情報と照合、どの軌道を通ると安全で早く進めるかを判断、その情報を、車両運動制御(モーター、アクチュエータ制御)に渡して制御するといった具合だ。

2つ目は、自動運転の課題に関する話だ。自動車が走る道路事情はさまざまで、「一定の車線で一定の間隔を維持して運転する」というルールが成り立たない環境はたくさん存在するという。例えば、同社が現在実証実験中の網走市の公道では、道路の積雪によって路面の画像認識が難しかったり、センサー情報が取得しにくい状況もあるという。また、アジアでは昼間と夜間で車線が変わったり、バイクと車が、間隔がほとんどない状態で走行することも日常的である。そういったルールが成り立たない環境下でどうすればいいのか?は、非常にチャレンジングな領域となるようだ。

 

ソニー「産業のスマート化を加速するイメージセンサの進化と役割の飛躍的拡大・浸透」

続いて登壇された、ソニーセミコンダクタソリューションズ(以下ソニー)からは、産業のスマート化をテーマにイメージングとセンシングの技術進化の可能性について、イメージングシステム事業部副事業部長の大場 重生氏から語っていただいた。

ソニーセミコンダクタソリューションズ イメージングシステム事業部 副事業部長  大場 重生氏

ソニーセミコンダクタソリューションズ
イメージングシステム事業部  副事業部長
大場 重生 氏

センサー市場を取り巻くトレンドとして、「社会インフラ」と「個人要求の実現」の2つのメガトレンドがあるという。大場氏によると、センサー市場の中でも、今後5年間においてもっとも成長性が高いのが、「社会インフラ」における自動車・産業用途だ。なかでも「産業のスマート化」は非常にポテンシャルの高い領域と期待されており、投資を緩めずにいきたいとした。

この「産業のスマート化」の領域で、同社はどんな価値を提供できるのだろうか。大場氏は、自動化/ネットワーク化が進む工場における課題と、それに対する取り組みとして予知保全を例に説明した。

産業におけるユーザニーズは、いかに「不良を作らないか」や「ラインを止めないか」といったシンプルな要求。一方、それらを実現するためのソリューションは多岐にわたり、新しい視点からの課題解決法がいくつもあるという。例えば、多品種を扱うラインでは、管理/工程も複雑化し人的ミスも増えてしまう。これに対し熟練者のスキルをモニタリングし、AI学習させることが有効になる。また、AIを組み込んだインテリジェント・イメージセンサをマシンビジョン用途に対応することで、工場内の計測・検査の工程が短縮できる。こうした予知保全への取り組みにより、低コストで安心安全を実現できることになる。

大場氏は、「AIの登場はイメージセンサにとってパラダイムシフトになる」と語った。これからは人が映像を見る時代から、マシンがデータとして見る時代となる。クラウドに繋がるすべてのマシンの膨大な情報は、クラウド側ではなく、エッジ側で「必要なときに、必要な情報だけを」処理することになるだろう。そしてイメージセンサは、このエッジAIをもとに進化していくことになる。

そのパラダイムシフトは何をトリガーとして起こるだろうか?大場氏の答えは「経済合理性があえば実現する」というものだった。

 

キオクシア「3Dフラッシュメモリ製造技術とその課題」

キオクシア 先端メモリ開発センター センター長 宮島 秀史氏

キオクシア
先端メモリ開発センター センター長
宮島 秀史 氏

キオクシアからは、スマート化を支える次世代メモリ技術について、先端メモリ開発センター センター長の宮島秀史氏から語っていただいた。

メモリはあらゆるところで必要になるキーデバイスである。宮島氏によると、車、産業のスマート化の流れの中で、ネットワークでつながる機器が、あちこちで重複してデータをもつことになり、結果として、メモリの需要は膨大なものになるという。今回の講演では、フラッシュメモリの高速大容量化への要求がますます強くなっていく中で、2Dから3D構造へと移行したフラッシュメモリのプロセス技術とその課題について紹介いただいた。

同社は、これらの膨大な需要に応える3Dフラッシュメモリ技術として、高層化、多値記憶、メモリセル分割の3種類の技術があると説明した。高層化は、セルを上に積み重ねて、大容量化を図るメモリ技術。多値記憶技術では、1個のメモリセルに1,0の2値以上の多数の情報を入れるもの。メモリセル分割技術は、メモリセルのワード線を分割し、メモリスルーホール当たりのセル数を増やし、記録密度を上げるものだ。

 

講演では、主に高層化を実現するBiCS FLASH™技術について解説いただいた。第3世代にあたる64層構造を有するBiCS FLASH™は直径100nm、深さ5μmの細孔をウェーハ上に約2兆個も形成する技術だ。さらにその5μmの孔の内部に2-3nmの薄膜を均一に形成するという。これを実現するため、同社はまっすぐに細長い貫通孔を開けるプラズマを用いたドライエッチング技術や、孔の内部の薄膜や電極形成にALD技術(反応ガスを高速に切り換えウェーハ表面に原子層レベルで均一な積層成膜)など、随所に工夫を重ねてきた。

こうした3D技術は、非常に難易度の高い技術。量のビジネスに応えるためには、コスト削減が強く要求されてくる。それを実現するためには、視点を変えて工場全体で費用を抑える取り組みをしなければならないという。プラズマ制御のモニタリングやパーティクル制御による歩留まり向上、成膜のスピードアップや製造プロセスで使用するガスや電力・水の削減などチャレンジすべき項目はたくさんあるようだ。

今回登壇されたデバイスメーカの取り組みだが、いずれに講演についても、デバイス自体の話を超えており、社会全体の今後の行方、あるべき姿を総合的に考えた高次元の「モノづくり」の必要性を強く感じた。

これからは、デバイス・機器に対してどういったサービスが求められ、どういった環境、用途で利用される可能性があるのかまで見据えた上で、技術開発をしていくことが必要になる。以前からその傾向はあったが、「スマート化」の流れの中でより加速されたようだ。また企業間連携・エコシステムの構築も必要だ。そして目まぐるしい変化に対応する柔軟性も求められる。

いやはや難しい時代になったものだが、自分の担当領域の外側の世界に触れたり、異業種とのネットワーキングの機会をもつことが、日々の活動として求められる時代になったということだろう。