SEMI通信 2020年2月号 スタンダード情報

半導体・電子デバイスの模倣品対策国際規格の開発状況

 

トレーサビリティ委員会日本地区技術委員会 共同委員長:日本電産サンキョー株式会社 角淵弘一

 

2018年から始まった半導体・電子デバイスの模倣品対策に関する国際規格開発が本格化しています。今月号ではその規格化の動きに対して以下の点を解説します。

  1. なぜそのスタンダードを開発するのか
  2. どのようなスタンダードになるのか
  3. それらのスタンダードが成立すると、デバイスメーカ・ファウンドリー・OSAT・部品サプライヤー・装置メーカは、それぞれ何を求められるか
  4. それらのスタンダードは将来普及するのか、模倣品半導体デバイスは本当になくなるのか

 

半導体デバイスは、航空機・医療機器・通信機(5Gを含む)・自動車などの先端産業において幅広く使用されています。それらの用途では、半導体デバイスに異常が発生すると、社会インフラがダウンしたり、人命にかかわる事故が発生する可能性が非常に高まっており、今後さらに信頼性が高まっていくはずです。

しかし、現在非常に多くの模倣品半導体デバイスが世界中に流通し、大きな問題が発生しています。それら模倣品半導体デバイスの流通金額は年間 US$7.5 Billionに達するとアメリカの政府関連で報告されています。その影響は、軍需・航空・鉄道・医療・自動車の分野に急速に拡大しています。 

模倣品半導体デバイスは、デバイス自体を模倣したもののほか、製造過程において不正な材料使用や不正な製造を行ったものもあります。それら半導体デバイスは、正しく動作せず、例えば寿命が極端に短い、ノイズの影響でクロックがばらつく、低温・高温などの環境下で動作不安定になる、などの症状を起こし最終製品の機能を損ね大きな問題を引き起こしています。

近年多くの半導体デバイスの製造は、以下のように分業化が進んでいます。

回路デザイン:デバイスメーカ、前工程:ファウンドリー、後工程/テスト:OSAT、販売:多数のリセーラー

それら半導体デバイスのすべてのサプライチェーンは、国を超えて存在しています。模倣品半導体デバイスの多くは、これらサプライチェーンのいずれかの段階で巧みに混入されています。

さらに半導体デバイスが利用される自動車・通信機・航空機業界などでは、電子回路の基板実装工程などを外注に依頼することが一般化しています。そして、その基板に実装される半導体デバイス・電子部品の調達も外注先に依頼することが一般化しています。そのことがさらに模倣品半導体デバイスの問題を急速に拡大させ、問題をさらに深刻化させています。

この状態を放置すると、これから拡大する5G通信社会・自動運転社会などの健全発展も阻害される可能性があると言えます。そこで、アメリカが発端となり、模倣品半導体デバイス対策の国際規格を開発する活動が始まりました。

 

現在の見通しでは以下の4つのスタンダードが作成される見込みです。

 

ⅰ)半導体デバイスの製造・流通を管理するトレーサビリティスタンダード

SEMI T23:Specification for Single Device Traceability for the Supply Chain

⇒SEMI T23としてすでに基本コンセプトが成立しています。SEMI T23には、目的・コンセプト・要求範囲などが定義されています。SEMI T23は、サプライチェーンを含めて個品単位で半導体デバイスのトレーサビリティを実現するスタンダードです。まだ内容に不足があるため、今後さらに追加を行う予定です。

 

ⅱ)半導体デバイスを出荷する際に使用する出荷ラベルに関するスタンダード(文書番号6448

⇒ドイツ自動車工業会(VDA)で規格化され使用されている出荷ラベルを参照して、半導体業界で使用する方針です。2020年中の成立を目指しています。

 

ⅲ)今回成立する複数のトレーサビリティスタンダードを有効化するために必要なコミュニケーションスタンダード (文書番号6504

⇒サプライチェーン上でトレーサビリティを実現するためにインターネットを活用します。その方法やデータフォーマットを定義します。ブロックチェーン技術を活用する予定です。

2020年中の成立を目指す予定です。

 

ⅳ)半導体製造装置・サブシステムを管理するトレーサビリティスタンダード。半導体デバイスを構成するマテリアル(部材)を管理するトレーサビリティスタンダード(文書番号6449

⇒正しい製造装置やサブシステムが使用されて半導体デバイスを製造したことをトレースするスタンダード。

⇒正しいマテリアルが使用されて半導体デバイスを製造したことをトレースするスタンダード。

図1 Document 6448 – New Standard: Specification Equipment and Material Labels Sample part with automotive VDA 4992 standard, 2D matrix code and HI label

図1
Document 6448 – New Standard: Specification Equipment and Material Labels
Sample part with automotive VDA 4992 standard, 2D matrix code and HI label

 

 

さて前述のスタンダードが成立すると、各社は何を求められるのか解説します。

 

マテリアル(部材)サプライヤーは何を求められるか

対象となるマテリアルは、ユーザ要求により決定されます。製品品質に直結する半導体デバイス構成マテリアルが対象となります。

  1. マテリアルの製造トレサビリティ管理
  2. マテリアル出荷時に、SEMI規格で指定されたラベルを貼る
  3. マテリアルの出荷情報を記録する。この出荷情報とマテリアルの製造トレサビリティ情報を関連付ける
  4. マテリアルの流通情報を記録する。この出荷情報とマテリアルの製造トレサビリティ情報を関連付ける
  5. 納入先において、半導体デバイス製造時にマテリアルの使用単位管理を可能とするトレーサビリティソリューションを提供する

 

装置メーカは何を求められるか

対象となる製造装置・サブシステムはユーザ要求により決定されます。製品品質に直結する製造装置・サブシステムが対象となります。

  1. 装置・サブシステムの製造トレーサビリティ管理
  2. 装置・サブシステム出荷時に、SEMI規格で指定されたラベルを貼る
  3. 出荷情報を記録する。この出荷情報と装置・サブシステムの製造トレーサビリティ情報を関連付ける
  4. 流通情報を記録する。この出荷情報と装置・サブシステムの製造トレーサビリティ情報を関連付ける
  5. 装置・サブシステムを納入先に導入する際のトレーサビリティ管理ソリューションの提供
  6. 納入先において、装置・サブシステムを運用する時のトレーサビリティ管理ソリューションの提供

 

デバイスサプライヤー・IDMは何を求められるか
ファウンドリー・OSATは何を求められるか

対象半導体デバイスは、使用する最終製品メーカまたは公的機関の要求により決まる見込みです。

  1. 対象となった半導体デバイスの製造品質を正確に提示するために、トレーサビリティ・サプライチェーン情報の提供
  2. 対象となる半導体デバイスの材料情報・製造情報・流通情報を正確に記録・提供

 

 

このような模倣品対策のスタンダードは本当に普及するのでしょうか、模倣品半導体デバイスはなくなるのでしょうか。

 

2つの理由で、今回開発している模倣品対策の国際規格は普及するものと思われます。

  1. 今回SEMIが開発している模倣品対策規格化をISO・複数の先進国・各工業会などが注視しています
    このSEMI規格が先陣を切り、ISOやいくつかの工業会がこの規格を参照して普及していく可能性があります
  2. データ革命の時流に合った規格化であります

 

このSEMI規格は、ブロックチェーンを活用し、さらにプラットホームといわれるクラウドに各データを上げていく可能性があります。製品に関する材料・製造・流通情報の多くをそれぞれの段階でクラウドに上げます。『製品品質に関連するデータが正しく存在するものは“正規品”であり、データに欠損があるものは“模倣品”である』このような方法で模倣品判定を行うことが可能になります。現在急速に進んでいるデータ革命の技術が、模倣品対策の解決を大きく進める可能性があります。

 

現在開発中のスタンダードは、以下の内容を説明する効力があります。

対象半導体デバイスが

 ① 正しい材料を使用している
 ② 正しい装置・サブシステムで製造されている
 ③ 最終製品に採用されるまで、正しい経路で流通している

 

このスタンダードの効力は、世界の安全に大きく寄与します。さらに、半導体・電子デバイス業界の健全発展に大きく寄与します。そして、自動運転自動車、5G通信インフラの発展を推進します。私たちは、このスタンダードを早期に作成していきたいと考えています。

図2

図2

 

ここで紹介しましたSEMI規格を作成するための組織は、図3のとおりです。

図3

図3
SEMIスタンダード トレーサビリティ委員会の組織図

 

Japan Equipment and Materials Traceability (EMT) liaison Task ForceおよびJapan Single Device Traceability (SDT) liaison Task Forceは、北米地区のそれぞれの親Task Forceと連携をとって情報共有を行っています。

これらの活動にぜひご参加ください。

 

本件に関する前回(2019年7月号)の記事はこちらです。

 

本件に関するお問合せ

SEMIジャパン スタンダード&EHS部
柳澤智栄 (cyanagisawa@semi.org)